これは2007年に、旧ブログへ投稿したものです。加筆、修正の上、こちらへ移行しました。
映画鑑賞について、作品の捉え方、印象というのは、鑑賞者をただ一人の個人に限定したとしても、その人の置かれた環境や状況によって左右されることだろう。学生時代に観たときの印象と、それなりに社会経験を積んでから観たときの印象が同じとは限らない。以前、そのようなことを次の作品についての投稿で触れた。
十二人の怒れる男 - Technically Impossible
『墨攻』もそのような作品だ。特にプロジェクトを経験すると、特にプロジェクト・マネジャの立場を経験すると、単なる中国の戦国時代における英雄譚、では片づけられない印象を抱くはずだ。
主人公が主導する戦い、不在の隙を突いた反撃戦の流れは、典型的な失敗プロジェクトの再生から結末までの顛末をを辿るようで、非常に印象的だったのだ。
作品のキャッチ・コピーは、次のように語るのだが、
10万の敵にたった一人で挑む。
彼の使命は、戦わずして守ること。
それはゲーム『三国無双』の様に、一人で大軍を相手に無双の戦いを展開するのではない。かといって、知略、奇策で敵を翻弄し、大軍を打ち負かすのでもない。戦術は籠城戦だ。「戦わずして守る」のではなく、「いかによく守るか」が前提にある。
ストーリーをプロジェクトに例えて併記すると、このようになる。
映画 | プロジェクト |
10万の大軍侵攻によって、小国のピンチ。 防衛線のスペシャリスト(主人公)を呼ぶ。 |
プロジェクトのピンチ。 立て直しのため辣腕PMを招聘する。 |
主人公は籠城戦の準備を始める。 埋もれた人材を抜擢し、総動員で防衛線を再建したり... |
PMは立て直しの順を始める。未活用人材を起用し、リソース総動員でファスト・トラッキングしたり... |
敵の攻撃 準備しておいた仕掛けを駆使して守り通す。 先行きに希望を見出す。 |
最初の山場 事前の備えで乗り切る。 先行きに希望を見出す。 |
不仲のスタッフの信頼も勝ち得て、防戦準備に力が入る。 それを快く思わない派閥の横槍が入る。 |
デスマを覚悟していたスタッフの信頼も勝ち得て、プロジェクトが進捗する。 それを快く思わない派閥の横槍が入る。 |
敵も厭戦気分、勝利は近い。 対抗派閥が成果横取りを画策する。 |
進捗順調、オンスケ目前 対抗派閥がプロジェクト乗っ取りを画策する。 |
対抗派閥の成果横取り。 主人公は罷免される。 信頼を勝ち得たスタッフは渋々、反対派閥に従うも、主人公に加担した罪で処罰される者もいる。 |
対抗派閥のプロジェクト乗っ取り。 PMは解任される。 スタッフは業務再開するが、前任PMに助力したことで冷遇される者もいる。 |
防衛線が破られる。 敗北を覚悟するものの、主人公の活躍により防衛成功。 |
デスマ再開 プロジェクト失敗を覚悟するものの、前任PMの独断復帰によりオンスケでプロジェクト完了。 |
辛勝 旧体制に戻る。 目的を果たした主人公は国を離れる。 処罰された者なども、嫌気がさして国を離れる。 |
プロジェクト完了 業務体制は変わらない。 契約を完了したPMは会社を去る。 会社に嫌気がさしたスタッフは転職する。 |
PMBOK戦国編、的な感覚だ。ただ作品をありのままに鑑賞するにしても、それまでに積み重ねた社会経験から、色々な事柄がオーバーラップしてくる。社会生活が長くなると、映画の見方、捉え方も変化するのだ。
墨家
そもそも墨家とは、実用主義、博愛主義、専守防衛の、防戦専門家集団という一面があったようだ。
墨家 - Wikipedia
墨子 - Wikipedia
その知恵や著書を眺めると、PMIのようなプロフェッショナル組織、そのガイドに通じるものを感じる。
例えばPMBOKは時間、コスト、品質、人員、調達などのマネジメント領域を含む、9つの知識エリアをカバーしている。これは墨家で言えば、城を守るための技術論集に相当するだろう。
PMBOKには、プロフェッショナルとして求める役割と責任、規則が定められている。やはり墨家にも、基本10大主張が存在している。何かと相通じる要素を感じた。