これは2005年に、旧ブログへ投稿したものです。加筆、修正の上、こちらへ移行しました。
士郎正宗原作のコミック『攻殻機動隊』を世間一般に認知させたのは、押井守の映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の功績が大きかったのではないだろうか。押井守の『攻殻機動隊』以降、そのタイトルはブランドと化し、担当する映画監督の独自脚色による印象が強く反映された、内容に一貫性のない別作品として展開されるようになった。
その嚆矢は、やはり押井守版なのだが、それをメジャー路線として確立したのは『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズだろう。
今回紹介するゲーム、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は、同シリーズの一部を形成するオリジナル・ストーリーだ。ストーリーも声優も、シリーズ・スタッフが担当しており、シリーズの雰囲気を十分に継承している。
しかし、ゲームとしてはどうだろうか。
「攻殻機動隊」、あるいはSACシリーズの一部として
ゲームとしての魅力、品質は置いて、一通りプレイして感じたのが、「攻殻機動隊」、SACシリーズという作品の尊重、そして作品との地続き感だった。世界観や雰囲気の継承が強く意識されているのだ。遊び終えたプレイヤーが、たとえゲームに満足できなかったとしても、一連のストーリーにはSACシリーズの1エピソードを見終えたような満足感を覚えるのではないだろうか。
ゲームのストーリーは、シリーズ2~3話分程度のボリュームがある。ストーリーの舞台は東北だ。お米(農業)と独立がキーワードになっている。ゲーム中では語られないが、宮沢賢治がモチーフになっているのではないか、と想像させる。
SACシリーズでは、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』との関連、それを引用する仕掛けがあった。このような所にシリーズの雰囲気を継承する仕掛けを感じさせる。
出典は失念したが、主人公である草薙素子の魅力は、落下の動きにある、と押井守は語っていた。落下しながら光学迷彩によって、姿が背景に溶け込んでいくのは、映画冒頭の名シーンだ。とにかく落下にまつわる仕掛けは多く、ゲームというメディアの特性を生かした演出として、十分に再現されている。
秀逸なのが身体感覚だ。プレイヤー自身が落下しているわけではないのに、落下中、足元がフワッとする、浮き上がる様な身体感覚を感じさせるのだ。ゲームがこの感覚を呼び起こすのは、『ジャンピングフラッシュ』*1以来の体験だった。
港湾施設のクレーンをジャンプしながら渡り歩く、高層ビルの壁面を壁伝いに移動し、目的のポイントで落下する、高所恐怖症の人は躊躇してしまうようなシチュエーションが設けられているのも、この「落下の動き」をゲームに取り込みたかったからではないだろうか。
「攻殻機動隊」の世界には「電通」と呼ばれる通信手段が用いられる。直接、脳へ語りかけてくる仕組みだ。ゲーム中、プレイヤーへの一方的な情報提供手段として、「電通」が用いられる。
この仕掛けの「攻殻機動隊」らしさは、ゲームのプレイ状況とはお構いなしに通信が入ることだ。狭い足場の移動中、プレイヤーが慎重に操作しているときだろうが、敵に囲まれて銃撃戦の真っ最中、プレイヤーが画面の文字を追っているどころではない状況だろうが、お構いなしに通信が入る。プレイヤーは操作しながら、音声(文字)情報を読み取るマルチタスクを強いられる。このような所の再現にも「攻殻機動隊」らしさがある。
ゲームとして
率直に言えば、Bランクのゲームだ。それは先述の演出に伴うゲーム性よりも、ゲームに合わせてアレンジできなかった作中要素と、操作性、難易度設定にある。
取り込みが不完全な作中要素と言えば、電脳ハッキングと光学迷彩だ。ゲーム中、敵の電脳をハッキングすることによって、敵を遠隔操作することができる。しかしハッキング可能な敵は限られている。例えば、一本道のルート上に、強力な装備を持った敵が配置されている。これではハッキングを用いることを前提にステージ設計されているとしか思えない、そんな「お約束」的な要素として実装されてしまった。そのため、プレイヤーが自由にハッキングを活用することはできないし、その活用がプレイ・スタイルに多様性をもたらすこともない。
また光学迷彩は放置アイテム化されている。『スーパーマリオブラザーズ』でいうところのスターみたいなもので、ユーザーが任意のタイミングで光学迷彩を発動することはできない。発動後は、時間制限で解除されてしまう。
そのような制約はプレイヤーにだけ適用され、敵は制約なしに活用してくるのだ。
コントローラーの全ボタンを利用する操作体系だ。スティック操作から読み取れるのは、プレイヤー操作はラジコン的であることだ。状況次第では、画面の見た目と、操作方向は逆転する。キー・マッピングを変更することはできない。
L1 | メイン攻撃 |
L2 | 格闘 サブ攻撃 |
R1 | つかまる 緊急回避 |
R2 | ジャンプ |
左スティック | 前進、後進、左右平行移動 |
右スティック | 視点操作 方向転換 |
操作に慣れるのは手間だ。そのためのチュートリアルとして初期ステージが設計されていればよいのだが、これがチュートリアルとしては行き過ぎた難易度だ。前述の港湾ステージが、最初のステージなのだ。高低差があり、飛び石の足場も多いため、慎重な操作が要求される。しかし後のステージに進むほど、このような操作は要求「されない」。ゲーム中、事実上の最難関はステージ1だろう。
ゲームにはTrainingモードも用意されているのだが、率直に言って、まったくあてにならない。
ゲームを一度クリアすると、2周目からは武器弾薬が無制限になる。寛大に解釈して、操作習熟のために1周目を費やし、「攻殻機動隊」としての本番、ストーリーを理解し、楽しむのが2周目以降、ということなのだろう。