現時点で公表されている仕様では、第8世代以降のIntel CPUが搭載された環境を、Windows 11はサポートしている。その後、第7世代CPUのいくつかが追加され、次のことが発表された。
we committed to exploring through Windows Insider testing and with OEMs whether there were devices running on Intel 7th Generation and AMD Zen 1 processors that met our principles.
この言及から分かるのは、第7世代CPU搭載環境について調査された結果として、いくつかのCPUがサポート対象に加えられたことだ。つまり、
- 第6世代については調査対象にすらされていない
- 端からサポート対象外
- サポートの見込み無し
- 除外されている第7世代CPU
- 今後、正式サポートに加えられる可能性は低い
- 検証の結果、対象外とされているから
Insider Previewでは、これらサポート対象外のCPUを搭載した環境に対して、ISOを利用したインストールが許容されている。不思議なのは、これが正式リリース後も継続されるような認識が広まっていることだ。おそらく、その根拠はTHE VERGEの記事*1に拠るのだろうが、THE VERGEだけでなく、それを紹介する日本のネットメディアについても、その根拠に繋がる公式情報を示していない。私が確認した限り、そのような言及は公式情報には含まれていない。
Windows Insider Previewに限定した対応として、サポート環境外の環境でも評価版をインストールできることは、過去の記事*2で触れた。今回の投稿は、もしこれが正式版にも適用された場合の考察だ。特に想定されるリスクについて触れている。
ライセンスの継承
まず真っ先に気がかりなのはライセンスの継承だ。2021年8月28日時点、MicrosoftはWindows 11のライセンス認証方法を公開していない。
この投稿では、その方法がWindows 10と同一である前提にしている。そして次のリスク・シナリオを想定している。
- ISOから上書きインストールしても、ライセンスが継承できない。
- ISOからクリーン・インストールしても、ライセンスが継承されない。
- Windows 11ライセンスを追加購入したとしても、サポート外なので適用できない。
ISOを利用する場合、選択できるインストール方法は次の2通りだ。
- 上書きインストール→つまりアップグレード
- クリーン・インストール
上書きインストールの場合、Microsoftのサポート可否に関わらず、アップグレード実行が可能であり、それが問題なく完了できるならば、まずはOKということになる。問題は、それが正常に完了できない場合だ。この場合、クリーン・インストールと同じリスクを孕むことになる。
クリーン・インストールの場合、Windows 10環境を消去して、Windows 11環境としてゼロからインストールし直すことになる。そのためライセンス認証をやり直さなければならない。Windows 10の運用に倣えば、「Windows 10の再インストール後のライセンス認証」に該当するだろう。その場合の認証方法は、次のいずれかになる。
- デジタル・ライセンス認証
- プロダクト・キー認証
いずれにせよインターネットを介した問い合わせが必要で、その成功可否はMicrosoftの対応次第だ。公式にはサポート対象外の環境であるにもかかわらず、公式にライセンスを付与することになるからだ。
ドライバの互換性
docs.microsoft.com
DCHドライバはWindows 10 2004から採用されている。DCHとは、次の原則に基づいて配布されるドライバ提供体制だ。
Declarative | INFのみによって指示された通りにインストールする |
Componentized | ベース・ドライバ=コア機能と、オプション機能を個別にパッケージ提供する。 |
Hardware support app | ドライバに付帯する、デバイス固有のアプリケーションは、Microsoft Storeから配布する。 |
Windows 11以降のドライバ提供は、このモデルに制限されるため、Windows 10、11を問わず、次の提供形態からDCHドライバのみの提供に集約されていくのだろう。
Windows 11用 | DCHドライバ | Microsoft Store経由の提供 |
Windows 10用 | 従来型ドライバ | Windows Update経由の提供 ベンダー個別の提供 |
いつまでDCHドライバ、非DCHドライバの供給を続けるかはベンダー次第だが、この状況を左右するのは、Intelの対応だろう。もし同社が第8世代以降への買替を促進しようと思えば、Windows 11用のチップセット・ドライバ供給を、公式サポートの要件通りに第8世代以降を対象に限定し、それ以前をサポートするドライバ供給はWindows 10用に限定すればよい、というわけだ。
可能性としてあり得るリスク・シナリオは、サポート対象外の環境に無理やりWindows 11を導入したものの、特にIntelチップセット用ドライバに起因するクラッシュが増える、しかし適切なドライバが提供されない、という状況だ。後述するクラッシュ率の増加は、この問題に起因しているように思われるのだ。
ちなみに、ここでいうクラッシュ=KMC (Kernel Mode Crash)、特にドライバに起因する障害とは、次の投稿で触れているような事象を指している。
impsbl.hatenablog.jp
KMC (Kernel Mode Crash)の増加
次の三要素が、従来環境を刷新するWindows 11の三本柱だ。
Security | 安全性 | TPM, SecureBoot, VBS |
Reliability | 信頼性 | DCHドライバ |
Compatibility | 互換性 |
最低要件を満たさない環境へWindows 11をインストールした場合について、Microsoftは次のように言及している。このクラッシュの一因には、前述のDCHドライバとインストール環境との相性、あるいは非DCHドライバとWindows 11との相性に起因していると考えられる。
Reliability: Devices that do not meet the minimum system requirements had 52% more kernel mode crashes. Devices that do meet the minimum system requirements had a 99.8% crash free experience.
最低要件を満たさない環境では、KMCが52%多く発生するのだという。この数値がどのような前提に基づいた割合、あるいは確率なのか明かされていないのだが、次のように計算されていると推測できる。
最小母集団500台のPCから、ランダムに100台を選択して7日間運用する、という実験をひたすら繰り返したとする。実験結果を集計した結果として得た、7日間にクラッシュを経験したマシンの割合ということだ。
要件を満たす環境であれば、99.8%のマシンがクラッシュを経験しなかった、と言っている。つまり統計的にクラッシュを経験するのは0.2%、100台中、1台クラッシュするかどうかということだ。
要件を満たさない環境では、クラッシュを経験する割合が52%増加するのだという。つまり、
0.2% * (1 + 0.52) = 0.3%
100台程度の規模では、あまり大差がないように思われるが、この値のシビアさは、運用環境の規模に左右される。加えて、解釈にも注意が必要だ。1台が経験するクラッシュは1回だけとは限らない。そして、この値は今後増大することが予想される。それは前述のドライバ供給の問題に通じているからだ。
つまり、要件を満たす環境にはDCHドライバが供給され続けるため、安定性は向上する。一方、要件を満たさない環境にはDCHドライバが提供されず、従来型ドライバは仕様では「インストールできない」ため、問題を解決することができず、結果として安定性も向上できないからだ。