これは2006年に以前のブログへ投稿したエントリーを加筆、編集したものです。
弐瓶勉と言えば『BLAME!』*1、『シドニアの騎士』が有名だろう。『BLAME!』がコミックだけでしか存在しない、映画化される前の同氏の作風といえば、ほとんど語られることのない作品背景、ストーリーで読者を突き放し、物理的、時間的なスケール間と精密描写で読者を圧倒するものだった。
『ABARA』もそのようなスタイルを継承しているのだが、変身ヒーローものだ。出版社が集英社に変わり、連載誌が月刊誌ウルトラジャンプへ変わった影響かもしれない。
これまでの作品に見られた、何となくのITぽさ、超絶テクノロジやサイバー感は微塵も感じられないが、背景となる世界は超巨大建築を思わせる風景の一部だ。そこには少しレトロな印象が漂い、おじさん、おばさん達が存在している。『BLAME!』から『BIOMEGA』*2まで、読者にはおなじみの風景だ。
今回の主人公は自らが破壊兵器だ。超高速機動で、戦闘シーンもそれに応じた瞬間移動的な機動を捉えた一瞬の描写を繰り返す。1ページをめくる読者の一瞬が、劇中では数か月から10年を経ることもあった『BLAME!』とは対極的な演出だ。
語られる情報は、読者にストーリーを理解させるには不足している。例えば、下巻10話で主人公の生い立ちが語られる。そこでの会話に背景とストーリーを理解する情報が含まれている。語られる内容は断片に過ぎず、とても全体像を理解することはできない。これまでの主人公の辿った経緯から、置かれている環境への理解を欠いていることを表すための演出とも理解できるのだが、やはり読者を突き放すスタイルなのだろう。
『シドニアの騎士』と同じ作者とは思えない展開だが、これが当時の弐瓶勉のスタイルだった。これがストーリーの結末まで続き、結末の解釈すらも読者に委ねられる。
星を脱出したのか、どこかの異世界にたどり着いたかのような人類の生存者二人の描写。暗黒の空間に浮かぶ白と黒の勢力(主人公と敵対勢力)。どうしたって訳が分からなさすぎだろう。
弐瓶勉作品と言えば、スターシステム的に登場するキーワードだ。「東亜重工」、「PLAYFORAD」、「重力子放射線射出装置」。異なる作品間を繋ぐようなキーワードは『ABARA』には登場しない。ただ巻末に同作とリンクするような読み切り短編が収録されている。
この短編「DIGIMORTAL」は、『BIOMEGA』の世界で繰り広げる、ABARA meets 珪素生物な雰囲気の作品だ。
ここに登場する異相教会という組織には、これまでの作品に通じる要素を多分に含んでいる。
- 過去の技術を独占的に発掘
- 人体のサイボーグ化を推し進める
- 「大崩壊」以前の文明によって生み出された不死者、「遺伝子操作の痕跡」のある者を処罰する
過去の技術を発掘すると言えば、『BIOMEGA』には技術文化遺産復興財団と言う組織が名前だけ登場していた。ほかにも、次のような関連を見出すことができる。
不死者 | 『BIOMEGA』のウィルス適応者 |
遺伝子操作の痕跡 | 『BLAME!』のネット遺伝子保持者 |
主人公の姿 | 『ABARA』の主人公 |
弐瓶勉は作品のディテールを派生、拡張させることで自身の作品世界を広げ続けているようだ。その結果として作品世界間の類似性、繋がりが、それぞれの作品世界がお互いの並行世界であるような印象を、読者に与えるのだろう。