中学時代、理科は得意科目だった。当時の授業は今でも覚えている。担当の先生は授業中に、「サボテンの葉が針状なのはなぜか」といったテーマに関連するものの、教科書には答えが載っていない問いかけを提示し、自分で考えて回答を導き、発表することを生徒に促していた。その手の質問に正答できる生徒は限られており、私はその常連の一人だった。この本のタイトル『地球は本当に丸いのか?』の類題も、その問いかけに含まれていた一問だった。
その問いかけに対する私の回答は典型的なものだった。水平線上にある船影は、水平線から下の部分が隠れている、という極めて教科書的なものだ。これに先生は次の反論をした。地球の球面は人間、船に対しても巨大すぎるため、水平線までの領域も事実上の平面といって十分なくらいに平らではないか?
事実上平面なので船の喫水線から水平線によって隠された領域は、ほとんど分からないのではないか。つまり、それは地球は丸いことを示すのに不十分ではないか、ということなのだが...
常連回答者の一人だった私にとって、この問題は未だに満足な回答ができないものだったのだが、この本によって反証が示された。地球の巨大すぎる球面は人間、船に対して平面同様「なんてことはない」。十分、丸いのだ。
著者は高校の理科教師であり、写真家でもある。地球は丸いことを示す身近な事象の説明を短く端的に示すと同時に、その事象を美麗に捉えた写真で紹介している。この本で紹介される「9つの証拠」のうちの8つは、言うなれば私の理科教師の問いに対する別解だ。もちろん残りの一つは私の回答だ。
私の回答については、船のように大小様々、確認も不明瞭な対象物ではなく、一目瞭然、水平線の彼方にある高層建築群によって示されている。
海ほたるから、およそ25Km先にある幕張新都心を眺めると、水平線上に浮かぶ高層建築群の足元3階分ほどは水平線の下に隠れてしまうのだ。それが写真によって明確に示されていた。
本紙に掲載されているその他の8つの回答も秀逸だった。中学生当時だけでなく現時点でも思いつかないところから着想を得た回答だった。
- 夕焼雲は下から照らされている。地上の人間の視点では日没でも、夕焼雲の高度では、まだ日没していない。
- 地平線の下から照らされた結果、雲に山の影が映る。
- 地上での日没直後のフライトでは、もう一度日没を見る機会がある。
- 月の模様が見る角度によって若干異なっている。
などなど。
最も感銘を受けたのは次の反証だ。仮に地面が平らとするならば、厚い空気の層、その水蒸気による乱反射で水平線(地平線)は見えない、という空気遠近法の観点からの発想だ。数学的なエレガントさを感じた。
余談
地球の丸さについての問いかけで、もう一つ印象に残っているのが全国高等学校クイズ選手権の近畿予選、第1問だ。90年代の問題で記憶が曖昧なのだが、地球が丸いことを踏まえた問題だった。
「東京タワーの先端から***まで直線を結ぶ時、直線は富士山の地下を通る。YesかNoか?」その直線が富士山近辺では地表に出ているのか、地下に埋もれているのか、を問うている。***は近畿地区大会会場近辺のランドマークだったと記憶している。確か奈良の大仏だったか。
思いつく考え方は、
- 富士山近辺の地表0mを想定した接線を想定して、その線が東京タワー、あるいはランドマーク地点での地表からの高さを考える。
- 正直に東京タワーからランドマークまでの直線を想定して、富士山近辺での高さを考える。
- 東京タワーからランドマークまでの中間地点、東京タワー(あるいは奈良の大仏)上空の一点を想定して三角関数から、一点の高さを求める。そこから富士山近辺での高さを予想する。
3のアプローチが現実的な気がする。
地球の周囲 | 4万キロ |
地球の半径 | 6371キロ |
東京タワーから奈良の大仏までの距離 | 370キロ。 |
距離を四捨五入して400キロとすると、それは地球1周の1/100。東京タワー、地球の中心、奈良の大仏の角度は3.6度(360度の1/100)。中間地点、東京タワー間の角度はその半分、1.8度だ。一点の高さをTとすると、
cos(radians(1.8)) = 6371/(6371 + T)
これを計算するとTは約3.15キロと出る。Tが3.15キロより低ければ、直線は中間地点で地下に潜っているということ。地図を見ると富士山は中間地点から東京タワーのちょうど真ん中あたりに位置している。東京タワーはTの1/10程度の高さなので、直線は十分、富士山の手前から地下を通っているのではないか?
しかし高校生が限られた時間で、このような計算をしないと求められない問題なのだろうか?もっと簡単な考え方があるはずだ。
- 作者: 武田康男
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