東郷平八郎がイギリス留学中に食べたビーフ・シチューが、現在の肉じゃがの元祖だと言われている。イギリス時代に食べたビーフ・シチューを、口伝の料理方法で再現させたものが始まりだとか。調味料を除いて材料は同じだし、現在のカレーやラーメンが、オリジナルに対する日本アレンジであることを考えると、納得な感じがしていた。ある料理の存在を知るまでは。
その料理とはスカウス。写真の料理がそれだ。レシピを調べて自分で料理してみた。盛り付けは肉じゃがぽいのだが、風味は決して肉じゃがではない。見た目は肉じゃがでも、実態は全く別の料理だ。
スカウスも肉じゃがも、そもそもはシチューだ。調味料を考慮しなければ、
- ポトフ
- アイリッシュ・シチュー
- スカウス
- 肉じゃが
に材料、調理法の違いはほとんどない。材料に火を通したら、水、出汁、調味料で煮込む。水加減や煮詰め具合、何肉を用いるかによって見た目、風味、食感が変わり、それぞれが別名の料理に仕上がる。
ポトフ、アイリッシュ・シチューの調味料は素朴だ。コンソメに塩、そして材料からの風味で印象が変わる。肉じゃがも負けず劣らず、出汁と醤油が基本だ。スカウスはと言えば、これが一味違う。醤油と対になる「ソース」だ。とんかつソースでもなく中濃ソースでもない、ウスター・ソースだ。
Scouse recipe - BBC Food
How to Make Scouse, the Traditional Liverpool Stew | Delishably
Scouse | The Domestic Man
とはいえ、そのウスター・ソースの風味は、多くの日本人が知っている「ソース」とは大きく異なっている。特徴的なのは醸造酢の風味が強いことだ。本家ウスター・ソースと、いわゆる「ソース」を別の調味料として認知させるくらいの違いをもたらしている。スカウスには、調味料として、そのようなウスター・ソースを用いる。端的にはリーペリンだ。日本では成城石井などで入手できる。
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次の材料を、肉じゃがを作る要領でスカウスに仕立ててみた。
ジャガイモ | 2個 |
タマネギ | 1個 |
ニンジン | 1本 |
細切れ牛肉 | 200g |
水 | 500ml |
コンソメ | 1袋 |
リーペリン(ウスター・ソース) | 50ml |
材料に火を通してから、コンソメと共に5分煮込んだのち、リーペリンを混ぜてさらに20分煮込んだ。リーペリンの醸造酢風味は、この煮込みの過程で完全に飛んでしまう。残るのはソースに用いられている香辛料の風味だ。日本の肉じゃがの甘い風味に比べ、非常にサッパリした風味になる。
この煮込みの過程での味見と調整の結果、人それぞれの味付けに変化するのだろう。
参照したレシピの多くにはローリエの葉が含まれていた。今回は混ざりもの無しの「ソース」肉じゃがの風味を捉えたくて、ローリエの葉は用いなかった。
"scouse recipe"で画像検索すると、まさにビーフ・シチューのような画像が多数、提示される。レシピによってはウスター・ソースを用いていないのに、なぜデミグラス・ソースのような色合いが生まれるのか不思議に思うばかりだ。
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