ルーと呼ばれる調味料がある。小麦粉を油脂で炒めた調味料だ。これをスープで煮溶かせばソースになり、さらに煮込み続ければシチューになる。小麦粉を使うかどうかは、料理文化、そのときのメニュー、そのときの調理具合(例えば、とろみ具合の調整)に依存する。
典型的な日本食にルーは存在しないが、出汁と合わせ調味料の組み合わせがソース一歩手前の状態で、それを煮込むことでソースと同等になる。この流れに沿う、典型的な日本食と言えば肉じゃがだ。酒、みりん、しょうゆ、砂糖の合わせ調味料に、具材の風味が流れ出てソースになり、そのまま煮込み続けて肉じゃがが出来上がる。
こう考えると、ビーフ・シチューに着想し、肉じゃがに発展するという通説には、何となく合点がいく。そして、このような調理の発展というのは、どうやら他国にも通じるところがあるようだ。中華料理にも、そのような料理がある。俗に共産党煮込みと呼ばれる、土豆烧牛肉(土豆焼牛肉)だ。
日本で言うところの肉じゃがは、日式土豆焼牛肉と書かれるように、向こうから見ても同種の料理と見なされている。端的にはどちらも調味料の異なる肉じゃがなのだ。両者の違いと言えば、
風味:肉じゃがは、先述の合わせ調味料に基づく甘じょっぱい風味であるのに対し、土豆焼牛肉はテンメンジャンの甘塩っぽさに、トウバンジャンと唐辛子の辛さ、刺激が加わる。
具材:肉じゃがは関西、関東の違いはあれ、薄切りスライス肉を用いるのが共通点だろう。そしてタマネギを用いる。土豆焼牛肉ではブロック肉をサイコロ状にして用いるし、長ネギを用いる。
肉じゃが的に仕立てる人もいれば、中華料理版ビーフ・シチュー的な趣で仕上げる人もいる。(投稿末尾、YouTube参照)トマトを加えるとボルシチ仕立てだ。これは紅焼土豆牛肉片と書く。
この流れに沿って一周回ると、ソースからシチューの間で具合よく濃度を薄めて、あるいは最初から意図して鍋料理に仕上げるものもある。土豆牛肉锅だ。
土豆牛肉锅は、町中華でも特に、その町に住む中国人たちを相手にしているようなお店で出してくれる。それもテーブル・メニューには掲載されず、冒頭の画像が店の壁に直接掲載されているだけ。それに気づいて、あえて注文する人にだけ出してくれるような具合だ。
何年も前、お昼休みに頻繁に通って食べていたのを思い出したものの、そのようなお店が近所に早々都合よくあるわけがない。色々と検索し、共産党煮込みの要領で、そのときの印象を頼りに自炊してみた。
材料は投稿末尾のブログに掲載されているものを参考にした。ブログでは牛肉500gを前提にしているのだが、それは私には多すぎる。牛肉200g換算で、分量を個人の好みでアレンジした。
調理法も同ブログとYouTubeを参照しているが、基本的には見様見真似だ。
材料
牛バラ肉(ブロック) | 200g サイコロ状にカット |
ジャガイモ | 1個 牛肉を大きさを揃えて、サイコロ状にカット |
長ネギ、青い部分 | ネギ1本から取れるだけ。 |
長ネギ、白い部分 | 1本 |
合わせ調味料
おろしショウガ | 大匙1杯 |
おろしニンニク | 大匙1杯 |
トウバンジャン | 大匙1杯 |
酒 | 50ml |
水 | 200ml |
唐辛子 | 1本 |
テンメンジャン | 大匙1杯 |
砂糖 | 適量 目安:小匙2杯 |
しょうゆ | 適量 目安:大匙1杯 |
調理手順
前提1:油を用いない。必要ならば牛バラについている脂身を使う。
前提2:ジャガイモ投入以後、具材で鍋にこびりついた調味料をこそぎ落としながら、全体を合わせていく。
- 中華鍋で、合わせ調味料を弱火で炒める。
- 中華鍋に青ネギ、牛肉を投入する。牛肉の表面を焼き付ける。
- 中華鍋にジャガイモを投入し、調味料を絡めるように炒める。
- 白ネギを投入し、全体を混ぜ合わせる。
- 酒、水、唐辛子を投入し、テンメンジャンを溶きながら加える。
- 5分程度煮込み味を確認しながら、砂糖、しょうゆで風味を調整する。
- 砂糖、しょうゆで適宜風味を調整しながら、好みの具合まで煮込み続ける。
※焼き付けた肉じゃが風に仕上げる場合は、アルミ箔などで落し蓋をすると良い。
肉じゃがの様にご飯のおかずにしても良いし、カレーやハッシュド・ビーフの様に食べてもおいしい。
個人的にはうどん玉と合わせるのが気に入っている。肉うどんの要領で、かけうどんに加えて少し煮込む。あるいは、まぜそばの要領でゆで上がったうどん玉に、ミートソースの様にかけて混ぜながら食べてもおいしい。どちらもトッピングに玉子の相性が良い。
余談
東郷平八郎が英国で食べたビーフ・シチューの再現を依頼して出来上がったのが肉じゃがだ、という通説がある。個人的に、それはビーフ・シチューではなくスカウスだったのではないか、と考えている。
何にせよ、ビーフ・シチューと肉じゃがの調理には相通じるものがある。中国語での料理名を通じて、その感覚は日本だけでなく、中国も同様なのではないか、と思い至る。
impsbl.hatenablog.jp