『ゴジラvsコング』(以下、コング)を観てきた。IMAX 3Dでの鑑賞は、映像も音響も迫力が十分に伝わる、とても満足できる体験だった。
1月に公開延期が発表され、7月2日の日本公開となった。MonsterVerseと呼ばれるシリーズ3部作中で、最高評価を獲得している作品*1なのだが、私にとっては、旬を逃したというか、何とも物足りなさを感じさせられた作品となった。
大きな理由の一つは、前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(以下、KOM)との相対評価だ。私にとってKOMが、弩ハマリだったことが、印象に与えている影響は大きい。他にも色々と理由は挙げられるのだが、まずは、これが一番に影響を与えている要因だろう。
監督の違い
KOMを監督したのは、マイケル・ドハティという、無類の怪獣映画好きだ。監督だけでなく、脚本も担当している。観客となる怪獣映画好きが積み重ねた鑑賞歴、それに伴う知識が暗に共有されているだけでなく、彼らが好むものを把握している。そのような人物に、十分な予算と時間を与えて、作品制作の主導的立場を担わせるのだから、もうそれは怪獣映画好きが好む絵、展開が盛り込まれることは、目に見えている。
人間ドラマの薄い、バトル・シーンだけのアトラクション的に評価されることになるのだが、そのように表する人たちは、そもそも「怪獣映画」に何を求めているのか、と思うのだ。怪獣と、その圧倒的な破壊の前では、人間など取るに足りないだろう。そこに人間ドラマを挟んだところで、存在そのものが陳腐なのに、そのドラマが陳腐さを覆せるのだろうか。それは、あまりにもドラマを過大評価しすぎだと思う。加えて、ドラマ自体の陳腐さ以上に、その挿入が作品自体を「怪獣映画」として陳腐なものにしてしまう。
どうやらコングを監督したアダム・ウィンガードは、この点を「理解」していたようだ。コングとの交流、相互理解的な何かが挿入されている。それがあってのシリーズ最高評価なのだが、それは陳腐すぎるだろう。まず人間同士が相互理解していない現実があって、なぜ怪獣とは相互理解できるのか。
東宝的、東映的
控えめに、「人間ドラマ」の挿入が作品そのものを陳腐化させるまでには至らなくとも、ギレルモ・デル・トロが監督した『パシフィック・リム』と、彼が降板した『パシフィック・リム: アップライジング』程度の差はあった。もちろん前者が格上、後者が格下だ。
怪獣の特性による印象の違いもある。KOMが怪獣同士の「ぶつかり合い」とすれば、今回は「殴り合い」だ。バトル・シーンの迫力については同等だが、怪獣の巨大さ、重々しさが伝わるのは前者だ。格闘、殴り合いは、どうしてもスピード感を伴う。怪獣は「巨体」なのに、軽さを感じてしまうのだ。それは、ワーナー公式のYouTube動画で一目瞭然だろう。
youtu.be
不思議な偶然というか、『パシフィック・リム』でも同様の印象を感じた。怪獣映画好き的に表現すれば、こういうことなのだ。とにかく前者は重々しさ、重厚さを伴うが、後者は総じて軽い。
東宝映画的 | パシフィック・リム ゴジラ キング・オブ・モンスターズ |
東映映画的 | パシフィック・リム: アップライジング ゴジラvsコング |
芹沢蓮、モナークの面々
モンスターバース3部作の一部であるだけに、シリーズ作品として前作から引きずるものがありはするのだが、そのリンクはそれほど強くはない。例えば、芹沢蓮だ。前作まで、渡辺謙が演じた芹沢猪四郎博士の息子であるという設定だ。設定からは、何か重要な役どころを感じさせるのだが、実際には存在どころか、設定すら無くても良い要素だった。
何も説明がないのだが、説明がなくとも物語が成立するほどに、何のストーリーに関わることのない存在だったのだ。
終盤、メカゴジラが暴走するのだが、彼が原因ではない。それは膨大なエネルギーが投入されたことに起因しており、彼は事前のテスト運用を提案するのだが、退けられる。メカゴジラの仕組み上、パイロットを必要とする設定なのかもしれないが、だからと言って、芹沢博士の息子を登場させる意義があるだろうか。飾りにすらなっていないのだ。
小栗旬はインタビューで次のことに触れている。どうやら、その役どころにふさわしい場面が存在していたようなのだが、無かったことにされてしまったようだ。
「自分の出番は当初から半分くらいカットされていると思う」と明かす。「完成したら初登場シーンも全然違うものになっていて。撮影が終わってからも内容が変わっていったので、去年(2020年)の1月に別のセットで追撮もしました」。
小栗旬、『ゴジラvsコング』で感じた悔しさと孤独 ─ 「謙さんはすごい」ハリウッド再挑戦へ準備 | THE RIVER
どうやらモナークを取り上げた場面が存在するようなのだが、関連する場面が全てカットされているのだという。ならば、いっそのこと丸ごと無かったことにしても良かったと思うのだ。実際、小美人に相当する役どころで出演したチャン・ツィイーの出演シーンは、全てカットされているのだ。
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おま国、あるいはファスト映画対策
最近は、映画のあらすじやダイジェストを動画公開するYouTuberが存在し、同時に、あえてそのような「コスパ」を好むユーザー層が存在している。「ファスト映画」と呼ぶらしい。
日本では、先週から上映が始まったばかりだ。しかし欧米では、すでにコングの上映は終了しており、すでにネット配信も始まっている。DVDなどのメディア版も販売されている。
加えて、ワーナーは自社YouTubeチャンネルに先述の動画をアップロードした。この動画は映画タイトル通りの決戦シーン(しかし最終決戦ではない)で、作中でも一二を争う名場面だ。
ある販売メディアやチャネル、方法が地域によって異なり、それによって享受できるサービスが制約されることを、「おま国」と呼ぶ。日本において、コングは公開直後から「おま国」状態だ。加えて、作中の名シーンがYouTubeで公開されるのはファスト映画対策でもあるのだろう。そういう時代だ。
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