思い出補正というのだろうか。昔はあれほど面白かった、熱中した作品に、時を経て改めて接したとき、昔ほどの面白さを感じられないことがある。特に昔のゲーム、映画、テレビドラマに接したときに、そのような落差を感じることがある。
『サンダーバード55』でも、きっとそのような落差を感じるのではないかと思いながらも、『サンダーバード』を劇場設備で鑑賞できるだけでも良し、と劇場を訪れた。そもそもの期待が小さかったことも手伝ってか、率直に、その出来栄えには驚かされた。
それは、私がリアルタイムで触れた再放送当時のセンス、雰囲気がそのまま再現されていたからだ。放送当時の未発表エピソードが公開されたような、それほどに演出からセンスまでが「継承」されたかのように再現された作品なのだ。
現代的アレンジではなく、継承と再現。
昭和特撮の技を継承する目的から、庵野秀明と樋口真嗣は特撮博物館*1を開催した。さらに昭和特撮の技法を継承して『巨神兵東京に現わる』を撮影した。それに通じる心意気を感じた。
いわゆる「リメイク』、「リブート」と言えば、現代的にアレンジされた事実上の新作であることが多いのだが、この作品は例外だった。言うなれば古美術の復元的な再現なのだ。放送当時に発売されたレコード(音声ドラマ)を、当時の手法を再現した人形劇で映像化する、と言う主旨だ。
もし何の情報もなく、黙って作品だけを提示されれば、2015年に制作された作品とは思えないほどに、放送当時の作品が再現されている。
フェティシズム的な魅力
模型の精巧さ、演出の巧みさ、そして発進シーンに代表される描写の巧みさ、これらにセンスとの相乗効果が加われば、作品全体を捉えたときの魅力に欠けたとしても、フェティシズム的な魅力が尾を引き、作品の印象は長く残り続ける。
日本の作品で代表的なのは『ウルトラセブン』だ。宇宙からの侵略をテーマに、前作の『ウルトラマン』に比してクールな印象の作品は、デザイン、ディテール、メカ描写に力を入れていた。特に、ウルトラ警備隊基地からの発進シーンだ。これは明らかに『サンダーバード』からの影響だった。
昔、このような番組が放送されるのは、毎週の決まった曜日、時刻に一度だけだった。観たい時に、観たい作品、観たいシーンを繰り返し観ることだ出来なかった時代だ。特に『サンダーバード』は頻繁に放送されることがなく、鑑賞機会が限られていたためか、飽きられることなく、前述の魅力を現在まで維持し続けている。
レディ・ペネロープ
しかし音声ドラマがオリジナルだからだろう、メカ描写に通じる場面が少ない。事実上の主人公は、レディ・ペネロープだ。そして満島ひかりの吹き替えは見事にはまっていた。
元々、レディ・ペネロープの吹き替えを担当していたのは黒柳徹子だった。大山のぶ代のドラえもん、山田康雄のルパン三世的なはまり役だ。
ディズニー映画のように、有名俳優、女優が声優を担当することがある。オーディションでキャラクターと声をマッチングさせた結果ということもあれば、話題作りのための配役、と言うこともあるだろう。ドラマ『とっとテレビ』で黒柳徹子を演じた繋がりで、レディ・ペネロープ役に満島ひかりが起用された。私はこれを、話題作りの結果と勝手に解釈していた。
しかしながら、実際のところ満島ひかりの吹き替えは、全く違和感がなかった。特に抑揚と、それが醸し出す印象が、素晴らしく貴婦人であるレディ・ペネロープにマッチしていた。
余談:鑑賞料金、割引不可
これは作品自体とは関係のない話題だが、個人的に印象に残ったのが、鑑賞料金の割引が一切適用されないことだった。〇〇の日やメンバーズデイ、あるいは毎週○曜日やレイトショー料金など、劇場によって違いはあるものの、何らかの割引サービスが設けられている。
なぜか、この作品については、これらの割引が一切適用されない。もし鑑賞する気があるならば、割引サービスの日を狙うことなく、自分の都合だけを考えて鑑賞に出かけるとよい。
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