Technically Impossible

Lets look at the weak link in your statement. Anything "Technically Impossible" basically means we haven't figured out how yet.

OpenAI取締役会宛て書簡の翻訳 - To the Board of Directors at OpenAI

OpenAI社員が、取締役会の解散、Sam AltmanとGreg Brockmanの復帰を要求しているのだという*1。その話題の発端となった書簡がこれだ。

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書簡の最終段落、太字になっている部分が、世間の耳目を集めている内容だ。つまり、Sam AltmanがMicrosoftで立ち上げる新組織へ、ほぼ全てのOpenAI従業員が転職するのではないか、というものだ。

既に、ほぼ全てのOpenAI従業員が署名したと伝え聞く。その中には、今回の解任劇を主導したと言われているIlya Sutskever(イリヤ・スツケヴィアー)*2の署名も含まれているという。当人は、今回の件について大変後悔している様子なのだが、

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どのような問題が、今回の解任劇の発端となったのかが不明なので、外野には全く訳が分からないことになっている。

世間の関心事は、組織や製品の行く末なのだろうが、私の関心事は、まさにこの問題であり、何が彼らをそうさせたのかだ。書簡に何かヒントがあればと期待して、書簡に目を通した。その何かの存在は確認できるのだが、それが何であるかは分からず仕舞いだ。ただ、そこで気づかされたのが、外資系「あるある」だった。

余談

経営幹部は言質を取られることを嫌う

個人的に注目だったのが第三段落の、次の個所だ。

Despite many requests for specific facts for your allegations, you have never provided any written evidence. They also increasingly realized you were not capable of carrying out your duties, and were negotiating in bad faith.

現場の幹部たちから、取締役会に宛てた事実確認について、取締役会は証拠文書を提示しなかったという話だ。ここでの「specific facts for your allegations」と、それに関する証拠書類が、今回の解任劇の原因であり、私の関心事でもあると推察するのだが、それが何かは分からない。

ただ、この文書を提示しないのは、OpenAIに限ったことではなく、特に外資系企業幹部の常套手段なのだ。とにかく彼らは、より上位の職位になるほど、発言やアイデアを記録に残されることを嫌う。議事録を残さないだけでなく、そもそも議事録を取らないこともある。つまりオフレコだ。
そのような具合だから、経営幹部が関与した事件がニュース報道されるとき、大体の場合、情報の出処は「メモ」なのだ。

例えば年次計画などのミーティングでは、各人の思惑、出席者間のトレードオフ、そのやり取りは紳士協定であり、俗にいう口約束、信用だけの世界だ。
議事録を取ることができない私は、その場で成果物のドラフトを作成しながら、各人の意向をその場でドラフトへ反映しながら、ミーティングを主導したのだった。

現場では、誰が言った、言わない、誰の担当までを議事録に残すのが常だが、経営幹部の世界では、意向が反映された結果が出力できればよく、その裏にある背景や意図は記録されないし、させようともしないことがあるのだ。
とはいえ、私はそれらを記録していたのだが。それは、あくまでも議事録としてではなく、やはり「メモ」なのだ。ちなみに、翌年度の作業に備えてのものだった。

そのような外資系「あるある」を思い出しながら、書簡を翻訳していた。

生成AIモデルのプラットフォーム間移行

書簡の内容とは無関係だが、早々にChatGPTを業務に取り入れた企業の中には、製品のサポート、その行く末、乗り換えまでを意識させられている組織もあるかもしれない。

一度生成したモデルを、他社のAIプラットフォームへ移行できるのだろうか。独自に学習させた生成AIモデルを他社製品へ移行する場合、簡単に移行できないとなれば、最初の選択によって、事実上のベンダー・ロックインが決まることになる。
今回の一件によって、そのようなハイリスクな一面、その対策などが早々に意識、周知、共有されることに繋がればよいな、と個人的に考えている。

注意、補足

書簡で用いられている人称代名詞は、次のように区別できる。

we 書簡に署名した人たち
you 取締役会、あるいはそのメンバー各位
leadership team 現場幹部
翻訳では「幹部陣」とした

この書簡は「we」から「you」に宛てられたものだ。「leadership team」は「we」に含まれている。

Bret Taylor*3Google Maps開発者の一人で、Twitter会長、Salesforce共同CEOを歴任し、かつてOpenAIの取締役会メンバーでもあった。
Will Hurd*4はCIA工作員の経歴を有する連邦下院議員だ。テクノロジーを専門領域とし、やはりOpenAI取締役会のメンバーでもあった。
つまりOpehnAI従業員は、Sam AltmanとGreg Brockmanだけでなく、この二人の復帰も求めているのだ。

翻訳

OpenAI取締役会宛て

OpenAIは最先端のAI企業です。OpenAIの従業員は、最高のモデルを開発し、その可能性を押し広げています。AIの安全性、ガバナンスについての取り組みは、世界基準に通じます。作り出した製品は世界中の、多くの人々に利用されています。私たちが働き、思い描いていたOpenAIは、いまだかつてなく優秀でした。

取締役会によるSam Altman、Greg Brockmanの解任劇は、これらの実績を台無しにし、我々のミッション、OpenAIそのものを毀損しました。取締役会は、OpenAIを監督する能力を欠いているのは明らかです。

思いがけず、取締役会の決定を知り、OpenAIの幹部陣は、組織の安定を図るべく、迅速に行動しました。取締役会の懸念事項に注意深く耳を傾け、あらゆる面で協力しようとしました。申し立てに関する具体的事実を度々要求しましたが、取締役会は一切の証拠書類を提示しませんでした。取締役会は職務遂行能力を欠いており、交渉も不誠実であることを、幹部陣は次第に確信するに至りました。

幹部陣は最も穏やかな工程を提案しました。私たちの使命、組織、ステークホルダー、従業員、そして一般社会に最も適した提案とは、取締役会の解散、並びに会社を安定的に前進させることのできる優れた取締役会を設置することです。幹部陣は昼夜を問わず、取締役会とお互いに合意できる結論を見出すことに努めました。それでも取締役会は、当初の決定から二日も経たないうちに、会社の利益に反して、暫定CEOであるMira Muratiを解任しました。取締役会は幹部陣へ、会社の破滅は「使命に違わない」とも通告しました。

取締役会の活動から明らかなように、取締役会はOpenAIを監督することができません。私たちは、能力、判断能力、使命と従業員に対する配慮に欠けた人たちに尽くし、協働することはできません。下に署名する者は辞職し、Sam AltmanとGreg Brockmanが経営する、新たに発表されたMicrosoft系列企業に参加するかもしれません。新会社への参加を希望する全OpenAI従業員に対して、Microsoftはポジションを用意しています。取締役会を解散し、Bret TaylorやWill Hurdなど2名の主席社外取締役を任命し、Sam AltmanとGreg Brockmanを復帰させない限り、私たちは間もなく行動し始めるでしょう。

原文

🔎To the Board of Directors at OpenAI,

To the Board of Directors at OpenAI,


OpenAI is the world's leading AI company. We the employees of OpenAI, have developed the best models and pushed the field to new frontiers. Our work on AI safety and governance shapes global norms. The products we built are used by millions of people around the world. Until now, the company we work for and cherish has never been in a stronger position.


The process through which you terminated Sam Altman and removed Greg Brockman from the board has jeopardized all of this work and undermined our mission and company. Your conduct has made it clear you did not have the competence to oversee OpenAI.


When we all unexpectedly learned of your decision, the leadership team of OpenAI acted swiftly to stabilize the company. They carefully listened to your concerns and tried to cooperate with you on all grounds. Despite many requests for specific facts for your allegations, you have never provided any written evidence. They also increasingly realized you were not capable of carrying out your duties, and were negotiating in bad faith.


The leadership team suggested that the most stabilizing path forward - the one that would best serve our mission, company, stakeholders, employees and the public - would be for you to resign and put in place a qualified board that could lead the company forward in stability. Leadership worked with you around the clock to find a mutually agreeable outcome. Yet within two days of your initial decision, you again, replaced interim CEO Mira Murati against the best interests of the company. You also informed the leadership team that allowing the company to be destroyed "would be consistent with mission."


Your actions have made it obvious that you are incapable of overseeing OpenAI. We are unable to work for or with people that lack competence, judgement and care for our mission and employees. We, the undersigned, may choose to resign from OpenAI and join the newly announced Microsoft subsidiary run by Sam Altman and Greg Brockman. Microsoft has assured us that there are positions for all OpenAI employees at this new subsidiary should we choose to join. We will take this step imminently, unless all current board members resign, and the board appoints two new lead independent directors, such as Bret Taylor and Will Hurd, and reinstates Sam Altman and Greg Blockman.