昨年末、FBIがad-blocker(以下、広告ブロッカー)の使用を推奨している、とオンライン・メディアなどが紹介して以来*1、広告ブロッカーを使用することを推薦、奨励しているかのように喧伝されることがある。
広告ブロッカーを使用することは問題のある行為ではないが、それをアンチウイルスや、マルウェア対策ツールのように、常時稼働させ、闇雲にオンライン広告をブロックすることをFBIが推奨しているわけではない。アラートでの言及は、防衛策の一案としての勧告だ。それは原文を読み、その文脈を理解すれば明らかだ。
毎年恒例のショッピング・シーズンでもあるサンクスギビングングを控え、昨日(11月15日)、FBIはオンライン・ショッピングについてのアラートを投稿した。いわゆる詐欺広告について言及はしているものの、"ad block"、"ad blocker"、広告をブロックをすることについては、一言も触れていない。
件のアラートを少々、追いかけてみよう。
検索エンジン広告の「なりすまし」対策としての広告ブロック
2022年12月22日、FBIは「Cyber Criminals Impersonating Brands Using Search Engine Advertisement Services to Defraud Users」*2というアラートを投稿した。これは検索エンジンの検索結果、その最上位に表示される広告について、特に公式サイトを偽装するような「なりすまし」についての警告だ。
その対策として、”TIPS TO PROTECT YOURSELF”に3つの手立てを提示している。その一つが広告ブロックだ。該当部分の引用と、その翻訳だ。
🔎TIPS TO PROTECT YOURSELF - 原文、引用
Use an ad blocking extension when performing internet searches. Most internet browsers allow a user to add extensions, including extensions that block advertisements. These ad blockers can be turned on and off within a browser to permit advertisements on certain websites while blocking advertisements on others.
🔎TIPS TO PROTECT YOURSELF - 翻訳
インターネット検索に際し、広告ブロックを使いましょう。ほとんどのインターネット・ブラウザは拡張機能を利用できます。拡張機能として広告ブロックも提供されています。広告ブロックによってブロック要否を切り替えることで、特定サイトの広告を許可し、それ以外のサイトでは広告をブロックすることができます。
引用外の文章で紹介されている対策、クリック前のURL確認、公式サイトへ直接アクセスすることに加えた、更なる一案として広告ブロックを紹介している。加えて、サイトごとの広告許可、不許可設定も紹介しており、闇雲に広告をブロックさせるニュアンスではない。
文脈に沿って解釈すれば、広告ブロックの利用を推薦しているのではなく、「なりすまし」広告に対する防衛策の一案として、FBIは広告ブロックを紹介している。
ホリデー・ショッピング詐欺
FBIは再び、オンライン詐欺について「2023 Holiday Shopping Scams」*3というアラートを投稿した。これはショッピング・シーズンを目前に控えた、一般的なオンライン詐欺についての注意喚起だ。
特に消費者向けに「BUYERS - BE AWARE!」として、下記引用の詐欺に対する警告を発している。詐欺の一部として、オンライン広告が含まれている。
🔎BUYERS - BE AWARE! - 原文、引用
- E-mails advertising hot-ticket or hard to find items, such as event tickets or gaming systems, that aren't from a legitimate source.
- Untrusted websites and social media ads promoting unrealistic discounts and bargains for brand-name items.
- Social media posts, often appearing to have been shared by a known friend, offering vouchers, gift cards, freebies, and contests.
- Online surveys designed to steal personal information.
- Advertisements for pets from sellers who are unable to confirm through in-person visits, video chat, etc. that the pet is real. Often, additional money is requested for various reasons that were not initially disclosed. After funds are sent, the pet never arrives.
- Online retailers who use a free email service instead of a company email address.
- Sellers posting online under one name but requesting funds to be sent to another individual, or any seller claiming to be inside the country but requesting funds to be sent to another country.
- Sellers who request payments through online payment methods that are not protected by the transfer company.
- Buyers signed up for a subscription or renewal service that wasn't advertised as part of the initial purchase. Read the fine print, know the company's return/exchange policy, ensure the purchase is clearly defined and understood, and monitor financial statements for any unauthorized charges.
🔎BUYERS - BE AWARE! - 翻訳
・イベント・チケットやゲーム機のような、注目の商品、入手困難な商品を宣伝する、疑わしい発信源からのメール
・ブランド商品のあり得ない割引、バーゲンを宣伝する、疑わしいwebサイトやSNS広告
・割引券やギフト券、無料提供やコンテスト、知人からの共有を装ったSNS投稿
・個人情報収集を目的としたオンライン・サーベイ
・対面、ビデオ通話などで実物のペットを確認できない業者からの広告。後から理由を付けて、追加の支払いを要求されがちです。たとえ支払ったとしても、ペットは届きません。
・会社のメールアドレスではなく、無料メール・サービスを利用しているオンライン業者
・オンラインでの名称とは異なる送金先を指定する業者、あるいは国内業者でありながら、送金先を海外に指定する業者
・決済代行業者を介さないオンライン決済を要求する業者
・初回購入時に告知されていないサブスクリプション契約、更新契約が含まれていたら、契約書を確認しましょう。返品、交換条件を確認し、購入内容を確かめたら、不正な請求がないか明細を確認します。
これに対しての対策が、「GENERAL TIPS TO PROTECT YOURSELF WHEN BUYING AND SELLING ONLINE:」に紹介されているのだが、そこに広告ブロックは含まれていない。特に疑わしいwebサイトや、SNS広告に対する事前の対策として、広告ブロックは有効に機能するはずだが、何も言及されていない。
ちなみに「block」という単語を含むのは、次の一文だけだ。ここではポップアップ・ブロックすることに言及している。
Make sure anti-virus/malware software is up to date and block pop-up windows.
結局は、ポジショントーク、切り抜き的な解釈?
広告ブロックすることに対して、あるユーザーは自衛の観点から擁護し、また別のユーザーはフリーライドの観点から非難することがある。件の情報を、我田引水的にポジション・トークの一部として利用したり、ある一部の情報を切り抜き、原文のニュアンスを無視し、ことさら何かを強調するように印象を操作したり、それぞれの立場から一理あると考えた上での発言とはいえ、情報発信としては不適切だろう。
さらに言えば、そのような話題を紹介するオンライン・メディアですら、内容を正しく理解しておらず、誤りを訂正することもない。
impsbl.hatenablog.jp
FBIのアラートは非常に平易で簡潔な英文で記述されており、読解の障害になる要素は限られている。分からない単語は辞書を引けばよいし、DeepLのような翻訳機能も、広告ブロック同様、ブラウザの拡張機能として提供されている。あるいはChatGPTのような生成AIに要約、翻訳を依頼しても良いだろう。
どれを試してみたところで、FBIが闇雲に広告ブロックの使用を推奨、奨励しているようには読み解けないはずだ。
余談
広告ブロックにまつわる、直近の話題と言えば、YouTubeの対策*4であったり、QRコードと短縮URLを組み合わせた話題*5だろう。常々思うのは、広告をブロックさせない仕組み、半ば強制的に表示させることには熱心なのに、広告自体の品質を維持、向上させようとすることについて、熱心さのかけらもないことだ。
twitter.comWhich one will outperform the others over the next 10 years?$AAPL $MSFT $AMZN $GOOGL pic.twitter.com/ODNCDejO8u
— Dividend Talks on YouTube (@DividendTalks) November 6, 2023
収益の半分以上を広告に依存しているGoogleのような組織にとって、広告ブロックについて対策し、収益機会を守ろうとする姿勢は理解できる。しかし、その努力に比して、配信される広告自体の品質維持に対する努力は、相対的に低いどころか、機能していないも同然なレベルである印象だ。少なくとも、その実効性を全く感じられない。
そのため、自分たちの収益機会を確保するための対策には一生懸命な割に、収益獲得手段となる広告、特にそのコンテンツの品質には、事実上、何も対応する気がない、という姿勢しか見えない。
例えば、YoutTubeが実施している3ストライク制のような試みを、ユーザーではなく、広告主に対して適用しないのはなぜだろうか。
YouTubeコンテンツの精査同様、広告コンテンツも膨大過ぎて、イタチごっこ以前に、精査しきれる物量ではない、というのが現実であれば、それは事業として破綻しているのと同義ではないか。
一方の責任を事実上放棄しながら、収益機会だけは逃さない、という姿勢ならば、プラットフォーマーとしての立場の濫用、無責任としか言いようがない。
最後にもう一つ。ブラウザの拡張機能として提供される広告ブロッカーだけがソリューションではない。自前で広告ブロックすることだってできることは、覚えておいて損はないはずだ。
impsbl.hatenablog.jp
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