先日投稿した「FBIの広告ブロッカー推奨は、闇雲な広告ブロックを推奨しているわけではない」*1は多くの人に参照された。同時に、その多くの人は、ただ訪問しただけであり、質の悪い人は碌に読みもせず、なぜかTwitterにて拡散しようとする人もいるのだ。
もしかすると、これは広告ブロック界隈では共通の特性なのかもしれない。関連記事そのものが、事実確認もせず、いわゆるコタツ記事的*2に生成され、たとえ誤りが含まれていたとしても訂正されることなく、それがさらに拡散、再生産されるのだ。
Google Manifest V3が広告ブロックに与える影響についての誤謬に加え、このことを指摘するブログ記事を見つけた。テック・ジャーナリストのCorbin Davenport氏が、自身のブログ『The Spacebar』にて、この問題に言及している。
直近の経験との類似性から親近感を感じて、この投稿を翻訳し、本日の投稿とすることにした。
www.spacebar.news
注意
一部の文章での、特にカジュアルな表現について翻訳を省略した。例えば、下記文章末尾の「because I sure am!」、「I don’t know!」だ。
You might be tired of hearing about YouTube’s adblock measures and Chrome extensions, because I sure am!
Maybe the filter rules required specifically for YouTube don’t work with those rule formats, I don’t know!
ほぼすべてが真面目な言及の真っ只中で一言、「知らんけど」などと訳出しても、違和感しかないだろう。
翻訳 - Tech media doesn't understand ad blockers or Chrome extensions
広告ブロックもChrome拡張も、テック・メディアは分かっちゃいない
YouTubeと広告ブロッカーの諍いから、新たなChrome拡張機能にGoogleが加えた制限まで、多くの記事は間違っている。
Google ChromeのManifest V3拡張機能が議論を巻き起こしている。特に、コンテンツ・ブロック(広告ブロック)機能承認にまつわる変更、そしてYouTubeが広告ブロックを妨害する新たな仕組みとの関連についてだ。あいにく一部のテック・メディアは事態を把握していないようで、動向を正確に理解することが難しい。
YouTubeの広告ブロック対策とChrome拡張の話題に耳を貸すのは、もううんざりだろう。その話題で持ち切りなので、SNS投稿では"youtube"、"adblock"などの単語はミュートしたし、Lemmyのテック・コミュニティも解除した。この話題は終わりにしたいのだけど、不覚にも、最近の記事が現状について語るのを目にしてしまった。もはやxkcdの登場人物の如く、それらを正さずにはいられないのだ。
声:寝ないの?
人:見過ごせないんだ
声:何が?
人:ネットで間違っているやつがいる
Chrome拡張機能に起こっていること、YouTubeと広告ブロックの戦いについては解説済みだ。事実に反しながらも、ジャーナリストからマニアまでが再三言及すること、GoogleがChrome上でuBlock Origin無効化しようとしているとか、広告ブロックを妨害しようとしているとか、それらに異議を唱える意図もあって、Chrome拡張機能についての記事を書き上げた。しかし今や、Googleと広告ブロッカー達の争いに関する報道は、さらにいっそうひどい有様だ。
ことの始まり
12月1日、Engadgetが「Inside the 'arms race' between YouTube and ad blockers.」と題する記事を投稿した。その大部分は人気広告ブロッカーの開発者インタビューで、YouTubeの新しい広告ブロック検知対策を実装中である、という話題だ。YouTubeの対抗策に備えて、ブロック・リストは1日に何度も更新されているのだという。
Ghosteryの商品開発責任者のコメントが引用されている。
Chrome Manifest V3が標準となれば、YouTubeに後れを取らずにやっていくのは難しくなる。拡張機能でできることが大幅に制限されるからだ。Modras氏によると、Manifest V3になれば、1日に何度も実施されるというブロックリスト更新の都度、「数時間から数週間を要する」レビューを受け、拡張機能全体のアップデートをリリースする必要がある。
「Manifest V3を採用することで、Googleは広告ブロック領域のイノベーションを妨げ、新たな広告、オンライン追跡が対策されるのを遅らせようとしているのです。」
(少なくとも部分的には)事実は異なっている。Manifest V3標準が求めているのは、コンテンツをブロックしようとする、あらゆるリクエストを、拡張機能に代わってChromeが処理することであり、拡張機能を通じて、Chromeがフィルター・リストを参照する必要があることだ。Googleが拡張機能パッケージに収録されたフィルター・リストを欲しがっているのは確かであり、Chrome Web Storeへ拡張機能全体のアップデートを提出する必要がある。毎日、フィルターリストに基づいて、拡張機能が新しいテキスト・ファイルをダウンロードするという、Manifest V2対応広告ブロッカーの仕組みよりも、このプロセスは遅い。
とはいえ、Manifest V3時代の拡張機能は、Googleによるレビュー・プロセスを経ることなく、拡張機能全体をアップデートせずに、従来通りにフィルターを更新できる。「ダイナミックルール」と呼ばれる手法だ。Chrome 121以降で採用され(1月にリリースされる。その数か月後にManifest V3が必須となる)、「block」「allow」「allowAllRequests」「upgradeScheme」を用いる、最大30000万のダイナミックルールが使用可能となる。
YouTubeに特化したルールは、このフォーマットでは機能しないかもしれない。機能しないとしても、より広範に機能する5000の追加ルールを、Googleは用意している。いずれにせよ「ロックリスト更新の都度、~中略~レビューを受け、アップデートをリリースする必要がある。」という記述は事実に反している。Chromeの開発者ドキュメント、Mozillaのドキュメント、先月投稿されたGoogle公式ブログを参照すれば、それらが誤りであることは簡単に分かる。
伝言ゲーム
このインタビューを取り上げた一部のテックメディアは、フィルター・リストを更新するには、拡張機能全体をアップデートする必要がある、という箇所を切り抜く。伝言ゲームのように、報道が繰り返されるたびに、内容はますます不正確になっていく。
12月1日、Ars Technicagaが「Chrome’s next weapon in the War on Ad Blockers: Slower extension updates」と題する記事を投稿した。内容のほとんどは正確だが、Googleの承認無しには、コンテンツ・ブロッカーは何も変更できない、ということを繰り返し報道している。やはり事実に反している。
Manifest V3が必須となれば、「一日に一度は」提供されるアップデートなど、とても実現できない。リモートでのコード実行を制限することが合理的とは思えない。
TechSportの記事「Google reveals the next step in its war on ad blockers: slower extension updates.」も同様だ。ただ間違っているだけでなく、斬新でもある。
将来の拡張機能更新は、それが承認され、ユーザーに提供される前にレビュー・プロセスを経る必要がある。~中略~Manifest V3の新レビュー・ポリシーにおいては、フィルターの更新に更なる時間を要することになる。
Chrome拡張機能に承認プロセスは付き物だ。キーワード「chrome web store review process」で検索すれば、Googleの開発者向け記事が見つかる。件の記事は、YouTube広告をブロックするために、完全に機能するコンテンツ・ブロッカーが欲しければFirefoxを、あるいはAdGuardのプレミアム機能に課金すること、を推奨して締めくくる。YouTube Premiumなら、月額課金でYouTube広告が消せるのを知らないのだろうか。
お気付きの通り、例を挙げればきりがない。
問題点
この投稿で、私がGoogleを擁護している様に思われるかもしれないので、はっきりさせておこう。私はGoogleの大ファンではない。ご存じのとおり、Chromeはまさにwebを合法的に独占していると思うし、そのパワーをGoogleは自らの製品、サービスを利するためだけに行使していることを、いくつかの事例が示している。同一グループ企業が、最も強力なwebブラウザを所有し、それしか動作しないコンピュータ(Chromebook)を販売し、ほとんどのオンライン広告を支配し、最大級の動画共有プラットフォームの一つを所有する、これは間違いなく利益相反だ。係争中のUS反トラスト訴訟と同様、各社の関係性を精査すべきだ。
率直に言って、これほど多くのテック・メディアからマニアまでが、基本的な事実確認すら怠っているとは信じられない。だからこそ、これについて語る必要がある。さらに悪いことに、ひどく通俗的な、Googleが邪悪であるとする世界観を補強するために、あらゆる誤った報道がソーシャル・メディア上で拡散され続ける。
特定のライターを批判するつもりはない。テック・ジャーナリズム業界に7年以上在籍し、この業界では、多くの人が不当な低賃金で酷使されていることは知っている。また誰もが時にヘマをするものだし、それはしかたがない。
Chrome拡張機能の方向転換は、なかなか専門的で、ほとんどの人はオンライン広告を好まないし、多くのテック・ジャーナリストはソフトウェア開発者でなければ、細部に至るまでチェックする時間もない。こうした要素に加えて、ニュースそのものが一部の広告ブロック業者の宣伝と化し、論争全体の収拾がつかないのだ。