SIMフリーのスマートフォンを個人で導入するに際し、4G時代までは、次の2点を考慮するだけで事足りていた。
しかし状況は変化している。技術基準適合証明等(以下、技適)の存在が認知され、意識もされ始めたからか、最近は技適を「詐称」する端末が登場している。
また5G通信のサービス開始に伴い、対応バンドを確認するだけでは十分ではない状況となった。
さらに新たな要素も現れた。一つは、マイナンバー連携やワクチン接種など、政府系アプリの利用可否だ。SIMフリー・スマートフォンでは、これらのアプリをGoogle Playからダウンロードできない、させてくれないことがある。
政府系アプリほど深刻なものではないが、デジタル著作権管理にも意識を向ける必要があるかもしれない。これはストリーミング・サービスの再生解像度に影響する。SIMフリー・スマートフォンに限らず、最近はFHD以上、4Kクラスの解像度を持つパネルが一般的ではあるものの、HDクラスで再生できないリスクがある。
この投稿では、5G対応のSIMフリー・スマートフォン、特にマイナーな端末を対象とした検討要素を紹介する。
一部の話題に、DOOGEE V20 (以下、V20)*2を用いている。それはバッドパターンを紹介することを目的としており、購入推奨を意図していないことを申し添えておく。
技適
日本で発売されていない端末を導入することは、SIMフリー・スマートフォンを選ぶ動機の典型例だろう。そもそも日本を市場として捉えていないのだから、グローバル仕様であっても技適を取得していないことが多い。このような端末を利用する場合、特例制度を利用しなければならない。
exp-sp.denpa.soumu.go.jp
www.tele.soumu.go.jp
技適を取得している場合、次のサイトで、その真偽を事前確認しておくと良いだろう。技適番号が分からなくとも、端末ベンダーやモデル名をキーワードとして検索することができる。
https://www.tele.soumu.go.jp/giteki/SearchServlet?pageID=js01www.tele.soumu.go.jp
V20はグローバル仕様の5G端末で、本体とパッケージに技適番号が<シール>されている。印字ではないところが怪しい…
その技適番号「205-200002」を上記サイトで検索すると、技適取得されている番号であることが確認できるのだが、この端末が技適取得されているわけではないことも確認できる。
V20は2022年モデルで、5G対応端末だが、技適を取得しているのは、いずれもDOOGEEの2020年モデルであり、それらは4G端末だ。つまりV20は技適取得を詐称している。
5G対応
5G NSA (Non Stand Alone)通信
4G (LTE)時代は、端末とキャリアの対応バンドを照合するだけで事足りていた。5G時代に厄介なのは、5G NSA通信だ。
これはLTEと5G周波数の組み合わせで通信をする。その組み合わせはLTE、5G周波数、1対1の組み合わせとは限らず、複数対複数の場合がある。対応LTEバンドに欠損があると、そのバンドを含む全ての組み合わせが機能しないことになる。
つまりキャリアの5G通信圏内であっても、4G通信しか機能しない場合があるのだ。
k-tai.watch.impress.co.jp
www.itmedia.co.jp
V20の場合、LTEバンド11、21、42に対応していない。上記資料を確認すると、これらを含む組み合わせ数は多いことが予想できるため、V20では、5G NSA通信が機能しない場面も多いことが予想できる。
LTE + 5G周波数の組み合わせは公表されておらず、キャリアに問い合わせても教えてはもらえないだろう。素直に、技適取得したSIMフリー端末を導入しても、それが全ての5G NSA通信に対応していることを保証するものではない。
確認するには、次の手順を経るしかないだろう。
- キャリアの対応端末を確認する
- それらの対応バンドを確認する
- SIMフリー端末の対応バンドと照合する
エンジニア・モード
グローバル仕様のSIMフリー端末は、一般的に次のネットワークに対応している。
CDMA | いわゆる3G 日本国外 |
EvDo | CDMA2000 AU系 |
GSM | いわゆる2G |
LTE | いわゆる4G |
NR | 5G NR |
TDSCDMA | TD-SCDMA 中国系 |
W-CDMA | いわゆる3G ドコモ、ソフトバンク系 |
端末のデフォルト設定は、総じて全選択されており、そのままでも通信できることが多いのだが、キャリアによってはユーザー自ら、適切なものを選択し直さなければならない。それはエンジニア・モードから行う。
一般的には次の番号で入ることができるが、端末によっては異なる番号の場合もある。
*#*#4636#*#*
変更するのは、次の項目だ。
Phone info > Set Preferred Network Type
またRadio Bandも変更する必要がある。Japan、あるいはAutomaticのいずれか機能する方を選ぶ。
Select radio band > Japan Select radio band > Automatic
これらの設定についても、キャリアがサポートしてくれることはなく、技適取得したSIMフリー端末であったとしても、基本的にはユーザーが自ら対応しなくてはならない。
政府系アプリ(マイナポータル、ワクチン接種など)
技適、5G対応は、まだ購入前に調べることのできる余地がある。特にマイナー端末を使用する場合、政府系アプリが厄介なのは、Google Playからダウンロードしようとするまで、事前に対応可否を確認できないことだ。
例えば、マイナポータルでは対応機種を掲載しているが、次の記述も添えられている。
記載の通信事業者以外の携帯電話サービス・公衆無線LAN(Wi-Fi)環境でも、
データ通信が正常に行える場合には、マイナポータルアプリを利用することができます。
マイナポータルアプリに対応しているスマートフォン等を教えてください。 | よくある質問|マイナポータル
特に、次の2点が関連している。
- NFC (Near Field Communication)対応可否
- Google Playからのアプリ・ダウンロード可否
NFC自体はグローバル規格ではあるものの、実態は複数規格の総称であり、Suica、マイナンバーなど、対応規格が異なっている。
アプリはGoogle Playからダウンロードするのが一般的だが、端末によってはダウンロードが制限されている場合がある。特にマイナー機種を利用する場合、実地確認するまで分からないのは、場合によっては深刻なリスク要因だ。
Google Playからダウンロードできなくても、いわゆるフリーapkをインストールし、動作させることはできるかもしれない。しかし、やはり次の深刻なリスクを伴う。幾ら自己責任とはいえ、とてもお勧めできるものではない。
- apk自体の安全性
- マイナンバーというかなり重要な個人情報を扱うリスク
ストリーミング・サービスとHD再生 - デジタル著作権管理
Netflixをはじめとする、ストリーミング・サービスの視聴は日常となった。スマートフォンに搭載されている画面もFHD以上から4Kクラスまでが一般的となり、スマートフォンで視聴するユーザーも珍しくはないだろう。
問題は、そのサービサーが許容する再生解像度だ。一部の端末では、HD再生不可のリスクがある。そしてこれはSIMフリー端末に限らず、一般的な端末にも当てはまる問題だ。
Widevine*3のエコシステムは次のようになっている。
- Widevine L1~3という、3段階のセキュリティ・レベルがある。
- 対応端末、あるいはプレイヤーのL1~3判定は、Googleが行う。
- L1であっても、事後格下げもある。そして実際あった。
- L1対応端末(あるいはプレイヤー)のみ、HD再生を許すストリーミング・サービスが存在する。
このエコシステムに一般ユーザーは関与できない。DRM Info*4を用いて、端末の対応状況を調べることができるとはいえ、対応状況を知ったからと言って、ユーザーがそれを変える手立てはない。
Widevine参加企業を見ればわかるように、マイナー端末のベンダーはメンバーではない。そして、そのようなベンダーの端末がWidevine L1判定されるかと言えば…それはGoogle次第だ。
もしストリーミング・サービスの再生品質が重要だと考えるユーザーにとって、有意義と思われる対応策は、参加ベンダーの端末を購入し続ける以外にない。
ちなみにAndroid DRM frameworkが、L1~3を判定するコードを提供している。
support.google.com
余談 - 5G時代のSIMフリー、マイナー端末選択の意義
MNPを前提とすれば、SIMフリーであることは、あらゆるユーザーにとってメリットがある。とはいえ、5Gサービスが始まり、政府系アプリのようにスマートフォンが日常に組み込まれるようになると、かつてのように端末仕様の確認だけでは、日常利用に支障をきたすリスクが避けられない。
- 通信キャリアの無料枠を活用するセカンド端末
- 一般的な端末にはない特徴的な要素に対する需要
など、日常利用する端末に+αするような用途に適用する以外、わざわざリスクを許容してまで、マイナー端末を導入する意義を見出すのは難しいだろう。
また円安傾向は、SIMフリー端末のコストパフォーマンス・メリットも解消してしまった。円安傾向下に置いて、iPhone SEシリーズやGoogle Pixel 6a*5のようなミドルクラスの端末の方が、コストパフォーマンス面においても、キャリア・サポートを含めたリスクの観点からも、圧倒的に優れている。
例えば、Surface Duo*6や、Nothing Phone (1)*7のように、SIMフリー・マイナー端末のリスクを考慮して、それでもなお一部のユーザーには魅力的に映る、彼らを引き付ける要素を備えない限り、マイナー端末の存在意義は薄れていくだろう。