Technically Impossible

Lets look at the weak link in your statement. Anything "Technically Impossible" basically means we haven't figured out how yet.

蘇るPC-9801伝説 永久保存版 - WIZARD98開発秘話

蘇るPC-9801伝説 永久保存版―月刊アスキー別冊
『蘇るPC-9801伝説 永久保存版』は、「ザナドゥ クローン」関連の投稿*1を書いているときに漁っていた、当時の資料に紛れていたものの一つだった。話題と直接関係はないので放置していたが、興味本位で流し読みしてみた。PC-9801の開発経緯から、当時のゲームについての話題、エミュレータまで、関心を引く話題がなかった中、唯一見過ごせなかったのが次の記事だった。

「WIZARD98開発秘話」

『WIZARD98』とは、当時FD(Floppy Disk)をメディアとして発売されていたゲーム・ソフトに施されたプロテクトを解除し、そのコピーを作成するツールだ。「バックアップ」ツールとして発売されていたのだが、実際には当時のPC少年、少女たちがゲーム・ソフトを違法コピーするために常用していたのが、おそらくのところ現実だったと思う。
当時は国産PCゲーム・ソフトの「レンタル」店が存在していた。例えば、今やパソコン、デジタル家電の一大量販店チェーンンのソフマップだ。そのようなお店で取扱いされていたソフトウェアだった。

当時、そのプロテクトだけでなく、PCがFDから起動し、プログラムを読み書きしているまでの仕組みを理解していない私は、PCの標準コピー、その挙動を妨害するためのプログラム的な仕掛けなのだと、漠然と想像していた。
今回の記事を読み、開発者自らの説明によって、その仕組みを知ることとなった。プログラム的な仕掛け以前に、それは記録面の構造の問題だったのだ。

おさらい

記事ではFDを対象に説明されているが、記録面についての仕組みはハード・ディスクでも、それほど変わらない。

トラック ディスク上を同心円上に分割する領域
セクタ ディスク上を放射状に分割する領域
トラックセクタ トラックとセクタの交わる領域
クラスタ 連続したトラックセクタ
ハードセクタ方式 ディスク面の物理的な穴を基準に、セクタ位置を判別する。
ソフトセクタ方式 各トラックのフォーマットによる次期パターンで、セクタ位置を判別する。

ja.wikipedia.org

プロテクト、コピーツール、ファイラー

開発者である上原哲太郎氏が語る、一番簡単なプロテクトの仕組みとは、標準規格外の独自フォーマットを定義することだ。つまり、具体的には次のようなものだ。

  • ソフトセクタ方式を採用する
  • セクタの位置、番号、長さを独自に設定する。

この独自フォーマットを読み書きできるよう、プログラムはディスクコントローラへ指示を与える必要がある。このプログラムが「コピーツール」だ。その指示は独自フォーマットに従う必要があり、その定義をパラメータとして指定しなければならない。そしてパラメータは対象のソフトウェアごとに異なる。対象ソフトウェアごとのパラメータを定義しているのが「ファイラー」だ。

ここでいう「ファイラー」は、いわゆるファイル・マネージャーのことではなく、そのようなパラメータを定義したファイルを指している。それが「ファイラー」と呼ばれるようになった経緯についても触れられていた。

本当は「ファイラー」って、パッチを一覧して実行するランチャーの名前だったんです。それが、パッチのことを「ファイラー」と呼ぶ人が多くて、そのまま定着してしまったという。

そのうちコピーでは再現できないフォーマットが出現する。読めるけど、書けないフォーマットだ。とはいえ、そのフォーマットをチェックしているのはプログラムであり、それは読める領域に記録されている。そのため、そのチェック・プログラム(チェッカー)を回避できればコピーできる。そのチェッカーを探すための機能を加え、ツールは進化していく。

このチェッカー探しというのは、特定の文字列を探し出すことが決め手のようだ。それに通じるエピソードとして、当時、難解なプロテクトの開発者として知られた小沢和昭氏と、上原氏を取材した朝日新聞の切り抜きが掲載されている。小沢氏は「OZAWA」という文字列を意図的に仕込んでいたようだ。その理由を小沢氏は次のように語っている。

どんなプロテクトでも、人間の考えることだから、限界がある。敵でも、解いた人にはエールを送りたかった。

これは1989年の記事で、当時でも違法コピーは問題視されていたものの、まだセキュリティや著作権については牧歌的な一面のある時代でもあった。特にPCという存在が現在のように一般的ではなかったため、広く一般に通じる話題でもなかっただろう。

ちなみに、『蘇る~』が出版された2004年、上原哲太郎氏は京都大学大学院工学研究科の助教授だった。現在は立命館大学情報理工学の教授で、ネットワークセキュリティを担当科目としている。
www.ritsumei.ac.jp

かつてはコピーツールの開発者でありながら、現在はサイバーセキュリティを専門領域とする同氏は、コピーツールの開発について次のように語っている。

最初は、確かにモラルがなかったけど、ある時期を境に、真剣に「コピーできる権利をユーザーから奪うのはけしからん」と思ってあの仕事をしてたつもりなんです。

これはソフトウェアに限らず、メディアの破損リスクが避けられないものには、いつも付きまとう話題のような気がする。例えば光学メディアで販売される映像コンテンツだ。そのリッピングにさえ、「コピーできる権利」が主張されるときがある。

2004年当時、NapsterWinnyによるMP3ファイルの違法コピーが、P2Pを介して流通していた。その合理的解決策としてiTunes Storeが世に問われたタイミングだ。
iTunes Storeはデータ販売からスタートし、現在では「サブスク」が主力になっている。おそらく、「コピーできる権利」の一面は、この「サブスク」によって解決されている。購読し続ける限りにおいては、コピーの必要性が無いのだから。

余談-レンタルで借りたCDのダビングは合法。違法ではない。

かつてはコピーツールの開発者でありながら、現在はサイバーセキュリティを専門領域とする同氏だからこそ、次の発言は「ごもっとも」なのだが、一つだけ誤りがある。

P2Pや、カジュアルコピーが問題なのは、「違法」という意識が無い人が多いことだと思う。レンタルで借りたCDをダビングしても合法、と本気で信じている人がいるのは、驚き以外の何ものでもない。

「レンタルで借りたCDをダビングしても合法」これは正しいのだ。同氏だけでなく、「本気で信じている人」も含めて、次の事実は意外と知られていない。日本レコード協会のwebサイトに掲載されている通り、これは違法ではない。合法なのだ。

Q8 レンタル店から借りたCDを自分のパソコンにコピーするのは違法ですか?

A8 違法ではありません。
レンタル店から借りたCDを自分で聞くためにコピーすることは、「私的使用のための複製」に該当するのでコピーできます。違法ではありません。

www.riaj.or.jp

さらに付け加えると、JASRACがレコード会社やアーティストへの貸与権、報酬請求権を認めており、レンタルされることによって生じる使用料を定義している。レンタル後、CDがコピーされるかどうかに関わらず、レンタルによる著作権者への利益は保護されているのだ。
www.jasrac.or.jp