「2%の物価安定目標の達成を目指す」というのだが、そこでいう物価は消費者物価指数などの指数として表現されている物価を指す。実際の物価はといえば、従前のステルス値上げに加え、人件費と輸送費の上昇によって、すでに2%どころか10%以上、上昇していると思われる。
例えば日清カップヌードルは実売120円程度であったが、先日から140円程度で販売されている。また単純な値上げではなく、ステルス値上げでもない、コスト削減と品質低下の両立によって実質値上げしている製品も散見されるようになった。これについては余談で触れる。
ここには2種類の異なる物価がある。
建前上の物価 | 黒田総裁の言う物価、あるいは指数化されている物価。 |
実際の物価 | 日々、私たちが感じている物価。 |
2%の物価上昇は目標としながらも達成されていないのだが、実際に意図しているのは、このようなことなのではないか。
- 建前上の物価では、目標達成する気はない。
- 実際の物価では目標達成する、あるいはすでに達成しており、それを維持、継続する。
- 建前上の物価を維持することで、賃金上昇を抑制し、結果として年金支出を抑制する。
ここ最近の賃金、年金の話題と関連することで、何となく辻褄の合う思考的なまとまりが形成されてきた。ちょっとした思いつきだ。
賃金、建前としての最低賃金引上げ
通常、賃金と物価は連動する。一般的には賃金が上昇し、消費が増え、物価上昇に繋がるサイクルで説明される。物価上昇が賃金上昇圧力につながる場合もある。例えば70年代のオイル・ショックだ。
非正規雇用をはじめ、不当に安く人件費が抑えられている。100の生産に対して、100の賃金を支払う必要があるところを、半分程度に抑えてきたような状況だ。この背景があるため、人手不足に伴う人件費上昇と言ったところで、それは本来、支払われるべきだった賃金水準に戻りつつあるだけのことだ。
また、この場合の賃金上昇(人件費上昇)はあくまでも人手不足に起因するものであり、物価上昇に起因するものではない。物価上昇が賃金上昇圧力に繋がるならば、現時点での本来水準以上の賃金を支払わなければならなくなる。
政府は3%/年の賃上げを定着させようとしているが、日本商工会議所などが反対している。建前上の物価同様、賃金上昇も抑制しようとするならば、3%/年の賃上げも建前と解釈すべきだろう。
www.jcci.or.jp
年金、マクロ経済スライド
年金額は賃金、物価と連動する。賃金(物価)上昇率に基づいて調整される、マクロ経済スライドと呼ばれる仕組みだ。当然、賃金、物価が上昇しなければ、年金額も上昇しない。物価については消費者物価指数が参照される。前述した「建前上の物価」だ。実際の物価ではない。
実際の物価を上昇させながらも、その上昇を指数に反映させないことで、建前上の物価を抑制できる。加えて賃金上昇も抑制できれば、結果として、政府の年金支出を抑制することができる。
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/finance/popup1.htmlwww.mhlw.go.jp
www.nikkei.com
ちなみに年金保険料は5年ごとに再計算される。財政再計算と呼ばれる。2019年は財政再計算の年だ。選挙対策なのかもしれないが、公表が遅れている。
今回は、厚生労働省社会保障審議会の「年金財政における経済前提専門委員会」で一七年夏から、検証の基となる物価・賃金上昇率、積立金の運用利回りなど将来の経済前提について議論を開始した。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201906/CK2019061302000140.htmlwww.tokyo-np.co.jp
消費者物価指数
どうやら消費者物価指数は改定の都度、上方硬直性を持つ仕掛けが実装されているようだ。分かりやすい説明の動画を見つけた。前編、後編を合わせて50分ほどの動画だ。
木村佳子の経済都市伝説「物価指数のコードを読め!」file 3 前編 4/11放送
木村佳子の経済都市伝説「物価指数のコードを読め!」file 3 後編 4/11放送
余談
内容量を減らしながらも価格は維持する、ステルス値上げと呼ばれている事象がある。工数や品質を落として、価格を維持する事象は何と呼ぶのだろうか。どうやらステルス値上げでは太刀打ちできない状況になりつつあるようだ。消費者へのメリットは皆無だが、供給者にはメリットのある仕掛けの商品を散見する。次の製品だ。
グンゼAIRZ
www.gunze.jp
グンゼは裾を切りっぱなしに仕上げられる生地を開発した。この生地で作った下着、AIRZには腰、裾にゴムがない。締め付けず、素材全体でフィットすることを売りにしている。
締め付けず、全体でフィットさせる仕様は、ユーザーが望んでいることだろうか、あるいは望まれていたものの、ユーザーが気づいていなかっただけなのだろうか。私には、グンゼによる後付けの理由に見える。本当の意図は工数削減ではないか、と思うからだ。
ウエスト・ゴムや裾の折り返しなどの工数を削減できる生地を開発し、従来品と同価格の製品を作成できれば利益が増える。とはいえ、ユーザーには新しい付加価値を後付け提案する必要がある、ということだ。
実際に履いてみた。確かに圧迫感はなく軽い履き心地なのだが、私には粗悪品のように感じた。生地は化繊で丈夫なのだろうが、とにかく薄っぺらい。使い古して伸びた生地のようにフニャフニャだ。また畳みにくいのだ。
ちなみに、この製品は全国量販店、小売店では取扱いされているのだが、百貨店では取扱いされていない。
エリエール・パフィー
www.elleair.jp
エリエール・パフィーというトイレット・ペーパーがある。通常であれば1ロール当たり25mのところ、75mにしたという。交換回数が減ることを売りにしている。
25mと75mのロールを比べると、75mの方が若干厚みが増しているのだが、それほど変わりがあるわけではない。つまり1枚当たりが薄くなっているか、薄くなるよう、引き延ばして巻かれているのだ。
ユーザーが同じ長さを利用する前提であれば、確かに交換回数は減るだろう。しかし、薄さを補うために多めに利用すれば、交換回数は、期待通りに減らないかもしれない。あるいは薄く引き伸ばされているのであれば、消費量に変化はないだろう。この時、交換回数は変わらない。いずれにせよ私には、この利点も後付けに見えた。本当の意図は輸送コスト削減ではないか、と思ったからだ。
例えば従来製品では1パック、25m、12ロールとしよう。1ロール当たり75mにすれば1パック、4ロールで済む。1度の輸送で、従来よりも3倍多くの製品を積み込みできる。実際のところ、一方的な業者の理屈で生まれた製品なのではないかと思う。消費量に変化がない前提では交換回数が減る、という事実を除き、そもそもトイレット・ペーパーに新規性のある画期的な付加価値など載せようがない、と思うからだ。