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昔からヒット商品や人気商品には、コンセプトや外見デザインを模倣したコピー品の存在が付き物だ。そのような数多くある製品の一つ、具体的にはApple AirPods Pro*1のコピー品が、今回紹介する製品だ。
最初はAirPods Proの外見を模しただけのBluetoothイヤホンだろうと思っていた。しかし、その予想はiPad Proとのペアリングで裏切られた。正規品と同じペアリング・プロセスが起動し、設定画面までもが正規品と同じだ。さらに、
などなど、一般のBluetoothイヤホンでは機能しない諸設定が、ことごとく機能する。正規品と同様に設定可能なだけでなく、モデル名、モデル番号の製造情報まで同じなのだ。
最初に、総評的な印象を述べてしまうと、パッケージ無しで本体だけを黙って渡されると、恐らく騙される人は多いのではないか、というものだ。例えばAirPods Proを偽って、ヤフオクやメルカリの様なフリマに本体だけで出品されていた場合、本物と信じて購入し、そのまま使い続けてしまってもおかしくないほどの出来であり、品質なのだ。
俄然、この商品を深掘りし、ブログで紹介したくなってきたのだった。
ハードウェア
私は正規品を持っていないため、現物同士を並べての比較はできない。とはいえ正規品の印字がないことを除いて、恐らくイヤホンの外見は正規品と同一だ。スイッチなどの操作系、操作方法も同じだろう。
Bluetoothに繋がない状態でも、ノイズ・キャンセリングなどの操作は可能だ。しかしイヤホン単体で機能することはできず、数分経過すると自動的に電源がoffになる。
正面LED下の印字を除いて、ケース外見も正規品と同じだ。背面にペアリング用のボタンも備えている。ワイヤレス充電にも対応している。イヤホン収納状態でふたを開けば、自動的に接続する。
Apple製品とのペアリング~設定
iPad Proとペアリングすると、AirPods Proと同じペアリングプロセスが起動する。一連のペアリングが完了すると、正規品と同じように振舞う。充電ステータス画面から、設定画面まで、全て正規品と同じだ。
ノイズキャンセリング
Bluetoothイヤホンを使い続けて10年以上になる。初めて購入したのは、SONY XBA-BT75*2だった。Bluetoothイヤホンの中では、おそらく最初で最後、唯一のBA (Balanced Armature)型のイヤホンだ。今、BluetoothでBA型を使おうと思えば、有線イヤホンをBluetoothレシーバに繋いで使うしかない。
当時、意識していたのは音質だった。しかし、今や重視するのは極力騒音を排した静寂、ノイズ・キャンセリング機能だ。
正規品を使用したことがないので比較できないのだが、このコピー品のノイズ・キャンセリングは優れている。音声、音楽以外の音をかなり積極的に打ち消してくれる。
イヤホンが接続中の音源での音声再生を止め、別の機器でラジオを付ける。ラジオの音声は聞こえるのに、屋外の喧騒がかなり排除されているのが実感できた。
ちなみに、たとえノイズ・キャンセリング中であっても、イヤホン単体での使用はできない。数分で自動的に電源を落とされてしまう。ノイズ・キャンセリングだけを使用するのでも、何らかの端末とのBluetooth接続を維持し続けなければならない。
音質、その他機能
音声再生の品質も十分すぎるほどだ。低音は良く響くし、音量を上げても、がなりたてるような音声に変わり果てることはなく、再生音全体のバランスが破綻することはない。オカルト的なオーディオ・マニアでない限り、この音質に文句をつけるユーザーは少ないと思う。
AirPodsにはコントロールセンターからアクセスできる機能もある。これらも正規品同様に機能している。
- 外部音取り込み(Live Listen)
- バックグラウンドサウンド
一番残念なのは、空間オーディオの動作を確認できないことだ。これは私の環境がiPad Pro 10.5であることに起因している。この端末は空間オーディオに対応していないのだ*3。そのため、該当機能が表示されない。
もしiPad Pro 11以降の端末とペアリングすれば、空間オーディオの設定項目が表示されるのかもしれない。
Bluetooth
Bluetooth接続の探索、ペアリング、ネゴシエーション中のパケットを取得する*4。
探索中のBluetoothコントローラから、イヤホンの名称が「AirPods Pro」であり、オーディオ系のクラスに加えて、プリンタ系のクラスも備えていることが分かる。
さらにパケットを追うと、コーデックの設定に辿り着く。AirPods Proは次のコーデックを申告している。
- SBC
- AAC
これは接続の優先順位に沿った申告だ。つまりSBCによる接続が最優先だ。SBCはBluetoothに標準搭載されているコーデックであるため、常にSBCで接続されることになる。これはApple製品でも同様だ。製品がAAC対応を主張しているから、さらにそれがApple製品とBluetooth接続したからと言って、そのオーディオ機器が使用するコーデックが常にAACとは限らないのだ。
それぞれのコーデックの詳細を確認すると、どちらもSCMS-T(デジタル・コンテンツ保護)*5をサポートしているのが確認できる。
使用中のBluetoothバージョンを特定するため、Wiresharkのファイル・メニューにて「Wireless > Bluetooth Devices」と辿り、AirPods Proを確認する。LMP versionの数値を確認すれば、バージョンが特定できるのだが、空白だった。特定することができない。
とはいえ、そもそも技術基準適合証明もBluetooth認証も受けていない機器なので、何が出力されたところで信用できないのだが。
Windows側の認識を確認する。以下に挙げる謎の存在を除いて、特に変わったところはない。
- ECmd
- Unknown Service
余談:もう一度、これはコピー品であること
2022年6月25日現在、この製品は3980円で販売されている。正規品の1/10強の価格だ。正規品の価格と比べると、コストパフォーマンスは良好すぎる。しかし忘れてはいけないのは、これがコピー品であることだ。
冒頭で触れたように本物の外見を真似ただけのBluetoothイヤホンであれば、それほど意識されることのない商品だっただろう。しかし、ここまで本物に迫るコピー品となれば、本物でなくても良い、これで十分と考えるユーザーが現れても不思議ではない。また冒頭で触れたように、本物であると盲信して使用し続けるユーザーもいるかもしれない。
本体がここまで正規品に迫るコピーをしながらも、正規品と間違えようのないパッケージを採用していることに、この両者を巧みに取り込もうとするような意図を、私は察してしまう。
つまり、前者のようなユーザーであれば、製品の実態が伝わりさえすればよく、パッケージは重要ではない。
一方、後者のようなユーザーを狙うなら、自らが騙す役割を担うのではなく、その役割を第三者に委ねたいはずだ。あからさまに正規品とは異なるパッケージを採用することで、悪意の第三者は、パッケージを除いた本体だけを流通させようとするはずだ。
コピー品をどのように利用しようが、それはユーザーの自由だが、くれぐれも騙されないようにはしたい。AppleはAirPodsのコピー品を識別するための情報を公開している*6。
Apple製品とのペアリングで、端末側に表示される情報までコピーされているのだから見分けようがなさそうだが、本体の印字を確かめる方法は残されている。正規品であれば、イヤホン側面(ヘッドとスティックの際)、ケース内部に印字されているのだが、奇妙なことに、この製品には一切の印字がない。
さらに言えば、パッケージから説明書に至るまで、規格や業者名、連絡先などに関する情報は、何も掲載されていないのだ。偽物なりの慎重さ、周到さが垣間見える。